人材関連コラム
2026年07月22日

目次
面接で聞いてはいけないこととは、厚生労働省が定める「公正な採用選考」の指針に基づき、「本人の適性・能力に関係のない事項」や、「本人の自由であるべき事項」を指します。
採用選考の目的は、応募者がその業務を遂行する能力(適性)を備えているかを客観的に判断することにあります。そのため、職業安定法第5条の4に基づき、社会的差別の原因となる恐れがある個人情報の収集は原則として禁止されています。これに抵触すると、行政指導の対象となるだけでなく、SNS等での炎上によるレピュテーションリスク(企業名声の毀損)に直結します。
◆比較表: 公正な採用選考における「質問の分類」
| 分類 | 定義 | 具体的な内容の例 |
|---|---|---|
| 本人に責任のない事項 | 本人の努力ではどうにもならない属性 | 本籍、出身地、家族構成、住居状況など |
| 本来自由であるべき事項 | 個人の思想や信条、価値観に関わること | 宗教、支持政党、人生観、愛読書など |
| 適性・能力に関わる事項 | 職務遂行に必要なスキルや経験 | 職務経験、スキル、志望動機、キャリアプラン |
ここまでは一般的な定義ですが、実務においては「どこまでが適性に関わるのか」の判断が難しい場面が多々あります。現場のプロから見ると、実はここからが本当の分かれ道になります。
面接官が不適切な質問を投げかけることは、単なる「マナー違反」では済みません。企業と面接官個人は、以下の3つの重大なリスクを背負うことになります。
厚生労働省および各都道府県労働局は、不適切な採用選考を行う企業に対して指導・助言を行う権限を持っています。是正勧告に従わない、あるいは悪質なケースでは、職業安定法に基づき「改善命令」が下され、最悪の場合は企業名が公表されます。 これは「法令遵守(コンプライアンス)ができない企業」という公的な烙印を押されることを意味します。
現代は、面接での体験が瞬時にSNSや口コミサイト(OpenWork等)で拡散される時代です。「親の職業を根掘り葉掘り聞かれた」「結婚の予定を問われた」といったネガティブな体験談が拡散されれば、企業の採用ブランドは一夜にして失墜します。一度ついた「ブラック企業」というレッテルを剥がすには、膨大な時間とコストがかかります。
優秀な候補者ほど、面接官の質問の質から企業の文化を敏感に察知します。調査によると、候補者の大半が「面接官の態度や質問内容」で入社意欲を決定しており、NG質問は、優秀なエンジニアを自ら競合他社へ送り出す行為に他なりません。
●ワンポイント!
職業安定法第5条の4は、個人情報の収集を『業務の目的の達成に必要な範囲内』に限定しています。面接官が『場を和ませるためのアイスブレイク』のつもりで聞いた家族や休日の過ごし方の話であっても、法的には『目的外の収集』とみなされるリスクがあります。特に技術的な熱意が高いマネージャーほど、技術的な興味から私生活に踏み込みすぎる傾向があるため、厳格な自制が求められます。
厚生労働省は、公正な採用選考を阻害する恐れがある事項として、以下の14項目を挙げています。あなたが明日の面接で絶対に口にしてはいけない「地雷」を、3つのカテゴリーに分けて詳細に解説します。
1. 本籍・出身地に関すること
「ご実家はどちらですか?」「本籍地はどこですか?」といった質問はNGです。これらは本人の努力で変えられるものではなく、居住地域による差別(就職差別)につながる恐れがあるためです。
2. 家族に関すること(職業、続柄、健康状態、病歴、資産など)
「お父様のお仕事は何ですか?」「ご兄弟は何人いますか?」といった質問は、家族の状況によって本人を評価することになり、不適切です。家族の職業や学歴、収入などは、本人の能力とは一切関係ありません。
3. 住宅状況に関すること(間取り、付近の施設、住宅の種類など)
「持ち家ですか、賃貸ですか?」「部屋数はいくつですか?」といった質問は、生活水準を推測し、それを選考基準にする恐れがあるため禁止されています。
4. 生活環境・家庭環境に関すること
「ご両親は共働きですか?」「家庭の雰囲気はどうですか?」といった、本人の育った環境や現在の家庭状況を詮索する質問もNGです。
5. 宗教に関すること
「信じている宗教はありますか?」「ご家族の宗教は何ですか?」といった質問は、憲法で保障された「信教の自由」を侵害する行為です。
6. 支持政党に関すること
「どの政党を支持していますか?」「選挙には行きますか?」といった質問は、政治的見解による差別につながるため、厳禁です。
7. 人生観・信条に関すること
「あなたの座右の銘は何ですか?」「人生で大切にしている価値観は何ですか?」といった質問は、個人の内面的な自由(思想・信条)に直結するため、原則として控えるべき事項です。仕事への向き合い方を確認したい場合は、「仕事を進める上で大切にしている行動指針」など、具体的な業務態度に紐づけた聞き方に変換する必要があります。
8. 尊敬する人物に関すること
「尊敬する人は誰ですか?」は、面接でよく聞かれがちな質問ですが、実は厚労省の指針ではNGとされています。尊敬する人物を通じて、その人の思想や信条を把握しようとする行為とみなされるからです。
9. 思想に関すること
「社会問題についてどう思いますか?」「どのような思想を持っていますか?」といった、個人の思想を直接問う質問は、思想の自由を侵害します。
10. 労働組合・学生運動に関すること
「学生時代に運動に参加していましたか?」「労働組合についてどう考えますか?」といった質問は、団体交渉権や結社の自由に関わる事項であり、選考基準にしてはなりません。
11. 購読新聞・雑誌・愛読書に関すること
「普段、どんな新聞を読んでいますか?」「愛読書は何ですか?」という質問もNGです。これらは個人の思想や信条を推測する材料となるため、公正な選考を妨げるとされています。
12. 男女雇用機会均等法に触れる事項
「結婚の予定はありますか?」「お子さんができても働き続けますか?」といった質問は、性別による役割分担を前提とした差別につながるため、男女問わず厳禁です。これらは男女雇用機会均等法に抵触するだけでなく、就職差別とみなされる重大なリスクがあります。
13. 性的指向・性自認に関すること
LGBTQ+などの性的マイノリティに関する質問や、本人の意に反してこれらをカミングアウトさせるような言動は、重大な人権侵害となります。
14. その他、適性・能力に関係のない事項
業務遂行能力に直結する「現在の状態」を除き、過去の病歴や通院歴を問うことはプライバシー侵害となります。もちろん、容姿、スリーサイズなど、職務遂行に直接関係のない事項を問うことはすべて不適切です。
●ワンポイント!
特に『尊敬する人』や『愛読書』がなぜNGなのか、納得がいかない面接官の方も多いでしょう。しかし、過去の裁判例や行政指導の積み重ねにより、これらは『個人の思想・信条を浮き彫りにする手段』として利用されてきた歴史があります。現場マネージャーとしては、個人の内面を深掘りするのではなく、過去の『具体的な行動』や『成果』を深掘りすることに注力してください。
あなたが知りたいのは「NG項目」そのものではなく、「その裏にある懸念点をどう確認するか」ではないでしょうか。NG質問を、業務遂行能力を確認するための「OK質問」に変換するテクニックを伝授します。
◆比較表: 現場で使える「言い換え」スクリプト集
| 知りたい意図(本音) | NG質問の例 | OK質問(言い換え例) |
|---|---|---|
| 残業や休日出勤ができるか | ご家族の理解はありますか? | 当社の勤務条件(残業・休日出勤の頻度)において、業務遂行に際し共有しておくべき制約事項はありますか? |
| 長く働いてくれるか | 結婚や出産の予定はありますか? | 仕事を通じて今後どのような専門性を高め、貢献していきたいと考えていますか? |
| 価値観や仕事への姿勢 | 尊敬する人は誰ですか? | 仕事をする上で、あなたが最も大切にしている行動指針やポリシーは何ですか? |
| ストレス耐性 | ご両親は厳しい方でしたか? | これまで仕事で大きな壁にぶつかった際、どのように乗り越えましたか?具体的なエピソードを教えてください。 |
| 転勤が可能か | 実家を継ぐ予定はありますか? | 募集要項にある通り将来的な転勤の可能性がありますが、勤務地に関する制約はありますか? |
質問の鉄則: 質問の主語を「あなたのご家族」や「あなたの思想」から、「あなたの仕事における行動」や「業務上の条件」にスライドさせることが、地雷を避ける最大のコツです。
ここまでは「面接官からの質問」について解説しましたが、現場で最も困るのは、候補者の方から自発的にNG話題を話し出した場合です。
例えば、候補者が「実は父が御社の社長と知り合いで……」「宗教上の理由でこの日は休みたいのですが……」と話し出した場合、あなたはどう反応すべきでしょうか。
1.「傾聴」はしても「深掘り」しない
候補者が話し出したとしても、面接官がそれを深掘りしてはいけません。「左様でございますか」「承知いたしました」と短く受け流し、すぐに次の業務に関連する質問へ移行してください。
2.「選考には関係ない」ことを明言する
特に合否に影響しそうなデリケートな話題(家族のコネ、病歴など)が出た場合は、「弊社では、公正な選考のため、ご家族の状況や個人的な背景は合否の判断材料としておりませんので、ご安心ください」と、その場ではっきりと伝えることが、企業としての誠実な姿勢です。
3.評価シートに記載しない(例:『父親が経営者』という情報は伏せ、『業界知識が豊富』という適性のみを記載する)
面接後の評価シートに、候補者が話したNG事項を記載してはいけません。記載した時点で、それは「選考材料にした」という証拠になってしまいます。
●ワンポイント!
評価シートは、将来的に候補者本人から開示請求を受ける可能性がある公的な記録です。万が一、不適切な項目が記載されていた場合、企業全体が行政指導や損害賠償のリスクに晒されます。『その記述が、第三者の目に触れても説明可能なものか』という視点を常に持ちましょう。
面接の冒頭、緊張をほぐすための「アイスブレイク」。ここであなたがつい口にしてしまいがちな「出身地」や「趣味」の話題は、実は地雷原です。
出身地: 「本籍・出身地」に触れるリスクがあります。
趣味: 「思想・信条」や「生活環境」を推測させる恐れがあります。
来社経路・交通機関: 「今日は暑い中ありがとうございます。会社まではスムーズに来られましたか?」
最近の業界ニュース: 「最近、〇〇という技術が話題ですが、エンジニアとして注目されていますか?」
自社の社風やオフィス: 「弊社のオフィスをご覧になって、第一印象はいかがでしたか?」
面接の流れの説明: 「本日は、まず私から事業内容を説明し、その後にあなたのご経験を伺いたいと思います」
アイスブレイクの目的は、あくまで「話しやすい雰囲気を作ること」です。相手のプライベートに踏み込む必要はありません。
面接で大切なのは、NG項目を暗記することではありません。「目の前の候補者が、この仕事で成果を出せる人物か?」という問いに集中し、その根拠となる「事実」だけを丁寧に拾い上げることです。
もし迷ったら、心の中でこう唱えてください。
「この質問は、仕事に関係があるか?」
あなたが、自信を持って最高の仲間を迎え入れられることを応援しています。
参考文献
厚生労働省「公正な採用選考の基本」
東京労働局「採用選考を行う企業のみなさまへ」
厚生労働省「職業安定法(昭和二十二年法律第百四十一号)」
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