人材関連コラム
2026年07月01日

目次
部下に退職代行を使われた際、多くの管理職は自責の念に駆られますが、まずは若手社員の心理障壁と社会構造の変化を正しく理解することが解決の第一歩です。ここでは、直接伝えることを避ける若手の心理と、離職が個人の責任ではない理由を解説します。
現代の若手社員にとって、退職の意思を直接上司に伝えることは、大きなストレスを伴う行為になっています。
彼らにとって、退職を伝えた後の「引き止め」や「説得」は、コミュニケーションではなく「攻撃」として捉えられる傾向があります。
| 若手社員の心理 | 具体的な背景 |
|---|---|
| 対立の回避 | 議論や交渉を「争い」と捉え、最初から選択肢から外す。 |
| 即時性の重視 | 辞めたいと思った瞬間に、面倒なプロセスを全てスキップしたい。 |
| SNSの影響 | 退職代行を「賢いライフハック」として肯定する情報を信じている。 |
管理職がどれだけ丁寧に部下と向き合っていたとしても、退職代行を使われるリスクをゼロにすることは困難です。これは個人のマネジメントスキルの問題ではなく、退職代行サービスという選択肢が一般化したことによる社会的な変化と言えます。
部下が代行業者を介して退職を宣言した事態を「防ぎようのない事故」と捉え直すことで、管理職は初めて感情を切り離し、管理職としての正しい事後処理に移行できます。
自分を責めるエネルギーを、これからの組織再編に充てることが重要です。
突然の電話に動揺せず、連絡相手の属性確認、委任状の要求、そして回答の保留という3段階の対応で主導権を握りましょう。
この初動対応が、不適切な要求に対処し、会社側の法的な落ち度をなくすための鍵となります。
退職代行サービスには大きく分けて「弁護士」「労働組合」「民間業者」の3つの形態があり、それぞれ法的に認められる権限が明確に異なります。
以下の表を参考に、相手がどの立場かを確認してください。
退職代行業者の属性別・対応境界線
| 運営体 | 交渉権の有無 | 管理職が注意すべき点 |
|---|---|---|
| 民間業者 | なし | 有給消化や退職日の「交渉」は非弁行為(弁護士法第72条)に抵触するおそれあり。 |
| 労働組合 | あり | 団体交渉権に基づき、一定の交渉が可能。 |
| 弁護士 | あり | すべての法的交渉が可能。本人への直接連絡は原則控える。 |
「本人の意思である証拠を確認するため、委任状のコピーをメールまたはFAXで送ってください」と伝えてください。
委任状の確認は、第三者によるなりすましリスクを排除するうえで有用です。
ただし、委任状が届いていないことのみを理由に一切の対応を拒否するのではなく、退職意思表示の到達状況を確認しつつ、窓口を一本化して実務を進めてください。
電話口で「わかりました、退職を認めます」と即答してはいけません。
相手が何を言おうと、以下の「預かり」を徹底してください。
●相手の連絡先を控える:社名・担当者名・電話番号を正確に記録します。
●専門部署に任せる:「社内で事実確認を行い、人事部より回答します」と伝えます。
●事務的に切る:感情的な議論は避け、一方的に電話を切らずに会話を終了させます。
管理職による不用意な発言は、後に「退職を強要された」と主張されるリスクがあるため、専門部署へ窓口を一本化することが最大の防御です。
業務の空白を埋めるためには、貸与品回収の事務化、チームメンバーへの適切な説明、そして退職確定までの法的期間の活用が不可欠です。
感情を排し、以下のステップで淡々と実務をクローズさせましょう。
PC、社章、健康保険証などの貸与品回収は、会社側から「返却用段ボールと着払い伝票」を本人の自宅に郵送するのが最も効率的です。
本人と接触せずとも、事務的に返さざるを得ない状況を作ることで、未返却トラブルを未然に防ぎます。
残されたメンバーへの説明は、迅速かつ簡潔に行ってください。
「Aさんから退職の申し出があり、本日以降は出社しないことになった。驚きはあるだろうが、当面の業務は部長である私が責任を持って差配する。不安な点があればいつでも相談してほしい」
このように、事実と今後の安心感をセットで伝えることが、連鎖退職を防ぐポイントです。
民法第627条第1項では、期間の定めのない雇用(無期雇用)について、退職の申し入れから2週間で雇用契約は終了すると定められています。
ただし、有期雇用の場合や就業規則の定めによって取り扱いが異なる場合があるため、契約内容の確認が必要です。この「2週間」という期間の扱いは以下の通りです。
●退職の確定:無期雇用の場合、特段の理由がない限り、会社が拒んでも2週間後には法的に退職となります。
●実務対応:本人の出社は期待せず、この期間内に人事部立ち会いのもとでPC内データの確認や取引先への担当変更通知を進めます。
怒りや困惑から生じやすい「損害賠償請求」や「本人への直接連絡」について、法的リスクと現実的な判断基準を解説します。
感情的な行動が会社にさらなる不利益をもたらさないよう、以下の内容を正しく理解してください。
結論から言えば、引き継ぎ不足のみを理由とした損害賠償の請求は、一般に認められにくい傾向にあります。
理由は以下の通りです。
●損害の立証:「その社員がいなかったこと」による直接的な損失額を算出・証明することが難しい。
●退職の自由:日本の裁判所は退職の自由を強く保護しており、引き継ぎ不足のみでは賠償が認められにくい。
ただし、機密情報の持ち出しや競業避止義務違反、意図的な業務妨害など、別個の違法行為がある場合は損害賠償が検討され得るため、事実関係の整理は行っておきましょう。
そのうえで、賠償請求を検討する時間と弁護士費用を、新しい採用や組織改善に投じる方が、会社にとっての費用対効果は高い場合が多いと言えます。
「本人への連絡禁止」という業者の要請を無視して、本人や家族に直接連絡することは避けてください。
法律上一律の禁止規定があるわけではありませんが、実務上は以下のリスクがあります。
●ハラスメントリスク:執拗な連絡は「強引な説得」や「脅し」と捉えられ、録音されて不利な証拠となるおそれがあります。
●SNS炎上:企業のブランドイメージが著しく低下するリスクがあります。
連絡窓口は、人事部または代行業者に一本化することが、管理職自身の身を守ることにつながります。
部下に退職代行を使われたという経験は、管理職にとって決して愉快なものではありません。
しかし、この危機を「法に基づいた適切な処理」で乗り切る姿は、上層部や残された部下に対して、皆様の危機管理能力を証明する機会でもあります。
今回のポイント
●自責は不要:退職代行は現代の「避けられない事故」である。
●初動は「預かり」: 業者の属性を確認し、非弁行為を牽制する。
●実務は「郵送」で: 本人と接触せず、事務的に備品を回収する。
●安心感を伝える: 他の部下には「私が責任を持つ」と宣言する。
管理職の皆様、一人で抱え込む必要はありません。
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