人材関連コラム
2026年07月06日

「とりあえず求人を出せば、誰か応募してくるだろう」という考えは、現在の市場では非常に危険です。なぜなら、ターゲットとすべき相手がどこにいるのかを正しく定義できなければ、採用コストの無駄打ちに終わるからです。
ここでは、人事が「求職者」を再定義すべき2つの大きな理由を解説します。
採用戦略を立てる際、まずは「誰を狙うか」というターゲット選定が必要です。ハローワークにいる「行政上の求職者」を狙うのか、それともSNSや求人サイトにいる「実務上の求職者」を狙うのかによって、求人票の書き方から媒体選び、スカウトの有無まで全てが変わります。用語の定義を固めることは、戦略のブレを防ぐ一歩となります。
ターゲットを履き違えた求人広告は、自社に合わない層からの応募を増やし、選考の手間という「隠れたコスト」を増大させます。また、上司への報告時に「最近の求職者は……」と語る際も、どの文脈でのデータを指しているかを明確にすることで、社内でのあなたの信頼性は劇的に高まります。
「求職者」という言葉には、主に「行政(ハローワーク)」「統計(政府調査)」「実務(採用現場)」という3つの側面があります。これらを正しく使い分けることは、労働市場を正確に把握する上で不可欠です。
各視点での定義の違いを以下の比較表にまとめました。
比較表: 「求職者」3つの定義と対象範囲
| 分類 | 根拠となる基準 | 対象者の主な特徴 | 実務での捉え方 |
|---|---|---|---|
| 行政上の定義 | 雇用保険法・職業安定法 | 公共職業安定所に申し込みをしている「失業者」。 | 雇用保険の給付や公的紹介の対象。 |
| 統計上の定義 | 総務省「労働力調査」 | 調査期間中に仕事を探しており、即就業可能な者。 | 労働市場の全体的な需給バランスの把握。 |
| 実務上の定義 | 採用マーケティング | 自社に興味を持つ可能性がある全ての「候補者」。 | 顕在層+潜在層を含む最広義のターゲット。 |
行政、特にハローワーク(公共職業安定所)における求職者は、雇用保険法などの法的側面が強くなります。主に「失業保険の給付を受ける権利がある人」や「公的な紹介を求めている人」を指し、以下の条件を満たす必要があります。
●労働の意思と能力がある: いつでも就職できる健康状態と意志がある。
●積極的な求職活動: ハローワークを通じて求職の申し込みを行っている。
●特定の13桁番号: 登録すると「求職番号」が付与され、行政はこの番号で管理します。
総務省が発表する「完全失業率」などの統計データでは、もう少し広い範囲を求職者として捉えます。ここでは、以下の「労働力人口」の考え方がベースとなります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 就業者 | 調査期間中に1時間以上収入を伴う仕事をした人、または休業者。 |
| 完全失業者 | 仕事がなく、すぐに就業可能で、過去1ヶ月間に職探しをした人。 |
| 転職等希望者 | 現在仕事を持っているが、別の仕事に変わりたい、または追加したい人。 |
統計を読み解く際は、この「完全失業者」と「転職等希望者」を合わせたものが、市場にいる求職者の総数に近いと判断します。
我々人事担当者がビジネス現場で扱う定義は、行政や統計をさらに広げた包括的な概念です。今の仕事に不満はないが「良い話があれば聞きたい」という層まで含めます。
●顕在層: 能動的に求人サイトで仕事を探している層。
●潜在層: 自ら積極的には動いていないが、スカウト等で動く可能性がある層。
採用の成功は、この「潜在層」をいかに自社の求職者リスト(タレントプール)に取り込めるかにかかっています。
ここで、あなたが上司への報告書に必ず盛り込むべき、重要なデータがあります。
リクルートワークス研究所の「ワークス大卒求人倍率調査(2026年卒)」によれば、従業員300人未満の中小企業における求人倍率は「8.98倍」に達しています。1人の求職者を約9社で奪い合っているという、極めて過酷な市場です。
この「8.98倍」という数字が意味するのは、ハローワークや一般的な求人サイトに広告を出して「待っている」だけでは、求職者に自社を見つけてもらうことすら困難であるという現実です。大企業の求人倍率が0.4倍台(買い手市場)であるのと対照的に、中小企業は常に「選ばれる立場」にあります。
8.98倍の激戦区を勝ち抜くためには、行政が定義する「仕事を探している顕在層」だけを追うのではなく、転職潜在層へのアプローチという手法が不可欠です。
1.ダイレクトリクルーティング: 潜在層に直接メッセージを送り、自社を認知させる。
2.リファラル採用: 社員の紹介を通じて、信頼ベースで潜在層に接触する。
3.SNS採用: 日頃から自社の魅力を発信し、「いつか働きたい会社」としてのポジションを築く。
「求職者が来ない」と嘆く前に、能動的に母集団を形成する姿勢が、2026年の中小企業には求められています。
現場で迷いやすい具体的なケースと専門用語について、アドバイザーの視点で回答します。
Q: 履歴書を送ってきた人は「応募者」と「候補者」どちらで呼ぶのが正解?
A: 実務上は使い分けるとスマートです。自ら応募してきた人は「応募者」、エージェント紹介やスカウト段階の人は「候補者(キャンディデート)」と呼ぶのが一般的です。
Q: ハローワークの「求職番号」とは何ですか?
A: 求職登録時に発行される13桁の番号です。紹介状を持参した応募者の管理や、ハローワーク経由の採用実績を確認する際に使用します。
Q: 在職しながら転職活動をしている人は、行政上はどう扱われますか?
A: ハローワークの定義では失業者ではありませんが、統計上は「転職等希望者」に分類されます。特に優秀な層ほど在職中に活動するため、転職潜在層というターゲットを外さないようにしましょう。
Q: 在職中の求職者を狙うメリットは?
A: 優秀な人材は「失業してから探す」のではなく「在職中に良い縁を探す」傾向が強いため、質の高い採用につながりやすいという大きなメリットがあります。
「求職者とは何か」という問いに対する答えは、あなたが今、どのような目的でその言葉を使うかによって変わります。
●行政上の求職者: ハローワークに登録している人(雇用保険や行政報告の基準)。
●統計上の求職者: 労働市場の需給バランスを示す「完全失業者」や「転職希望者」。
●実務上の求職者: 転職サイトにいる層から、まだ動いていない「潜在層」まで含めた、自社の未来の仲間。
しかし、これだけの情報を整理して、さらに「8.98倍」という中小企業の高い壁を突破する戦略を一人で立てるのは、容易ではありません。上司への報告資料を作成し、さらに潜在層へのアプローチまで手を広げるには、専門家の力を借りるのが最も効率的です。
採用活動は、プロと二人三脚で進めるのが、実は最もコストパフォーマンスが良いのです。
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参考文献
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